退職代行を利用すると会社都合の退職扱いにできる?自己都合との違いは?
最終更新日:2020年12月28日
退職代行を利用すると、すべて自己都合での退職になると誤解している人も多いのではないでしょうか? しかし、パワハラやセクハラによって会社を辞める場合、退職代行を利用したとしても会社都合で辞めることは可能です。詳しく確認していきましょう。
目次
退職代行を利用すると会社都合の退職にはできない?
結論からいうと、退職代行を利用しても会社都合の退職にすることは可能です。
退職代行を利用して辞める場合、すべて自己都合になってしまうように感じている方も多いでしょう。すぐにでも辞めたい場合、「自己都合での退職でもいいや」と考えてしまいがちです。しかし、自己都合と会社都合ではその後の失業保険の額などが変わってしまうのです。
また、会社都合で辞めたと思っていたのに、離職票には自己都合になっていた!という場合でも、本人からハローワークに異議申立てをすることで会社都合の退職に変えてもらうことができるのです。
そもそも…会社都合と自己都合退職って?
そもそも会社都合と自己都合退職がどのように違うのかを確認しておきましょう。まず、基本的なことをまとめておくと以下の通りです。
- 会社都合・・・解雇や退職勧奨など労働者の責任によらない退職。パワハラやセクハラといった会社の問題による退職も該当します
- 自己都合・・・希望して退職するケース。転居・結婚・介護などが該当します
なお、退職代行を利用する場合は、会社側に何らかの事情があることが多いはず。基本的に退職代行を利用したいと考えている人は会社都合での退職を考えた方が良いでしょう。
それでは、基本事項だけでなく、詳しいメリットやデメリットを確認してみましょう。
会社都合退職とは・・・退職代行利用者の多くはこちら
会社都合退職は、労働者の側には非がなく、パワハラやセクハラをはじめとして、会社側に原因があって辞める場合の退職です。詳しい条件としては以下のようなものがあります。
会社都合退職の条件
会社都合での退職が認められるケースとしては、例えば、以下のようなものが存在します。
- 残業時間が、毎月45時間以上、辞める前の3ヶ月続いていること
- 従来の給料よりも85%以下に減額された
- 業務内容の変更(営業で入社したのにお茶くみなどの雑用しかやらされない)
- 嫌がらせ、セクハラ、パワハラ
- 勤務地が変更になった
- 業務契約の未更新
- 会社の業務が法令に違反する場合
- 給料の未払い
- 会社の都合で休職を命じられた
※参考:ハローワークインターネットサービス – 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
特に多いのが、同僚や上司からの嫌がらせやパワハラです。ただし、パワハラや嫌がらせは、給料の減額と違って客観的な証拠がないことが多いといえます。
ボイスレコーダーで証拠を残しておいたり、うつ病の診断書などを用意しておいたりすると良いでしょう。
パワハラで悩んでいる方はこちらの記事も読んでみてください。退職前の準備についてなど、詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
会社都合のメリット・・・失業保険で得する
会社都合のメリットは、失業保険をすぐに受け取ることができることです。詳しく説明すると以下の通りです。
- 失業保険が最短7日後に受け取れる(自己都合なら3か月間は失業保険を受け取れない)
- 失業保険が最大で330日間受け取れる(自己都合は最大150日)
- 被保険者期間が半年以上で失業保険給付の対象になる(自己都合退職の場合、最低でも1年以上)
この中でも、特に失業保険が早期にもらえること、しかも、給付日数が自己都合の2倍以上になるということは大きいといえるでしょう。退職後は、すぐに仕事が見つかるとは限りませんよね? 退職後の生活を安定させるためにも、会社都合の条件に当てはまるなら、会社都合でやめるようにしてください。
会社都合のデメリット・・・なかなかやめられない可能性もある
会社都合のデメリットは、すぐには辞められないこともあるという点にあるのです。会社都合で辞められると、会社としてはペナルティがつくなどの不利益が生ずるのです。
たとえば、民間企業は助成金を受けることがあります。しかし、助成金は、半年以内に会社都合退職者がいない場合しか受け取れない場合があるのです。ですから、助成金を受けたい企業は自己都合退職にしてくれないと退職を認めない等と強く迫ってくることもあります。!
そのため、なかなか辞められず仕事を続けることになる可能性も出てきてしまうのです。
また、会社としっかり交渉する必要がある場合、退職代行業者についても労働組合が運営する「SARABA」や、弁護士が運営している「弁護士法人みやび」などを選ぶ必要が出てきます! 弁護士による退職代行は少し高額になるので、退職の費用負担がかかるデメリットも発生するといえるでしょう。
自己都合退職とは・・・一般的な退職
自己都合退職とは、労働者側が転職や結婚、妊娠、出産、引っ越し、家庭の都合などを理由に、自分の意思でやめることを指します。
自己都合退職の条件
自己都合退職に当てはまる条件としては以下のようなものがあります。
- キャリアアップしたい
- 職業を変えたい
- 資格取得の勉強や進学がしたい
- 結婚
- 妊娠・出産・育児・介護に専念したい
自己都合のメリット・・・すぐに辞められる
自己都合でやめる場合、会社側に前述の助成金のようなペナルティは発生しません。ですから、自己都合ならばすぐに辞められる可能性がかなり高くなります。
加えて、自己都合ならば会社と交渉が必要になるといった可能性も低いので、スタッフが弁護士ではない退職代行業者に依頼しても問題ないので、代行費用を安くすることも可能です。
自己都合のデメリット・・・失業保険がなかなか受け取れない
会社都合ならば、退職後すぐに長期間失業保険が受けられます。しかし、自己都合ならば、3ヶ月と7日後からしか失業保険が受け取れず、最大150日の期間しかお金を受け取れないのです。
退職後はすぐにお金が必要になってきますよね? なかなか失業保険が受け取れず、生活が大変というデメリットがあるのです。
「一身上の都合」はNGの理由
退職届に「一身上の都合」と書いてしまうと、仮にパワハラなどによって辞める場合でも「自己都合」での退職になってしまいます。
もしも、退職代行を利用して辞める理由が、転職や結婚など本当にご自分の都合によるものならば、「一身上の都合」でも構いません。
しかしながら、営業職のはずなのにお茶くみやコピー以外の仕事をさせてくれない場合その他いじめやパワハラで辞める場合など、前述の会社都合の事情に当てはまるなら、その後の失業保険のためにも「一身上の都合」ではなく「会社都合」で辞めるべきです。
そもそも、会社のせいで辞めることになってしまったのに、会社側に一切のペナルティがないのは納得できないことも多いはず。代行業者に相談し、会社都合で辞めましょう。
会社都合で退職のはずなのに認められなかった場合
会社都合で退職したはずなのに、その後に送られてきた離職票には「自己都合」と書かれていたということもよくあります。さらに、自己都合で辞めたものの、辞めたあとに冷静になったら会社都合だったということもあるでしょう。
しかし、このような場合は、ハローワークに「異議申立」を申し出れば事情をしっかり聞いてくれて、理解してもらえれば会社都合に変更してもらえます。
ただし、その場合は、証拠がないと変更してもらえません! 残業時間が過剰ならばタイムカードのコピーを、パワハラやいじめならばボイスレコーダーの証拠音声などを提出しましょう。
まとめ:退職代行を利用して会社都合で辞めよう!
会社都合で辞めた場合、その後の失業保険も早く、しかも長く受給できます。
早く辞めたい場合は、「一身上の都合」で自己都合退職しがちですが、仮にパワハラなど会社都合に該当する事情で辞めるなら、実態に即して、「会社都合」での退職にしましょう!
この場合は、退職代行業者を利用したほうが、法律や証拠集め方法などで助言をもらえるので確実性が向上します。
すでに退職届を自己都合で出していても、ハローワークに「異議申立」する手段もありますから、この場合も退職代行業者や社労士、弁護士などの専門家に相談してみてください!あなたご自身がハローワークの窓口で事情をちゃんと説明すれば、納得できる解決を図ってもらえるでしょう。
社労士からのアドバイス
ハローワークの「離職証明書とは?|ハローワーク利用案内」では、離職票のイメージなども含めて離職手続きを解説しています。ご一読をおすすめします。
なお、上記の通り、会社としては労働者の退職が「会社都合」であると、いろいろな不都合が生じます。
労働者の無知につけ込んで「会社都合退職にすると再就職できにくくなる」などと言ってくる場合も見受けられますが、懲戒解雇でもない限りそんな心配はありません。さらに「自己都合にしておいてください。退職金を割り増しします。」等と持ちかけてくる場合もあるようです。
ハローワークのこの記事の中でも注意喚起されています。ぜひ参考にしてください。
また、私の執筆した次の記事「<新型コロナ解雇>失業保険を自己都合にされたときの対抗策 | ミスター弁護士保険」では、会社都合自己都合の違いについて詳しく解説しています。参考にしてください。
監修者プロフィール
社会保険労務士 健康経営エキスパートアドバイザー玉上 信明 (たまがみ のぶあき)
三井住友信託銀行にて年金信託・法務・コンプライアンスなどを担当。
2015年10月65歳定年退職後、社会保険労務士開業。執筆・セミナーを中心に活動。
人事労務問題を中心に、企業法務全般や時事問題にも取り組んでいます。